08/19/2016

樋口真明さん 人と木をつなげるプロジェクト

■平成25年度修了者

 

ものすごく真摯に語っていたかと思えば、一転ガハハと笑顔になる。

地域の山や木材、そこに関わる人々への思いがとても熱い人。

今回は「人と木をつなげるプロジェクト」を主催する樋口真明さんのインタビューをお届けします。

 

木材利用の立場から、製造する立場へ

 

樋口さんは現在、愛知県に社を構える向井木材株式会社に務めています。

向井木材株式会社は、工事の中でも木材の加工・組立てなどの木工事を主に行う会社で、案件としては学校や老人ホームなどの公共物件を請け負うことが多いとのこと。

また、木工事だけでなく製造した製品の他社への販売もしており、設計士や木材製造担当・営業など25名ほどの社員で構成されています。

その中で樋口さんは、製材工場である「みよし工場」の副工場長として原木仕入から製材・製品の納品・JAS材の格付・木材管理などの業務を担当しています。

副工場長として幅広い業務をされている樋口さんですが、これまでずっと製造畑一筋なのかと尋ねてみたところ、笑いながら意外な答えを返してくれました。

「いや、今の職場に来るまでは木材製造なんてまったくしたことなかった。以前は独立して大工をやっとったのよ。そんで、今の職場に来て製材なんかをやり始めたけど、最初はなんもわからんかった。いわゆる木の学術書なんかを読みまくって木の細胞とか、そんなところから徐々に勉強していって。それが最初の3年くらいかな。」

 

 

大工という木材利用の立場から一転、木材製造の立場へ。

この間、樋口さんの中で一体どのような心境の変化があったのか。

その当時のことを詳しくお聞きしました。

 

この木はどこから来るのか、という疑問

 

今から15年ほど前の2002年頃、当時、大工だった樋口さんは木材を取り扱うある商社の北欧ツアーに参加します。それは、その商社が扱っている輸入材が山から伐採され、工場での加工を経て日本に輸出されるまでの過程を見学するツアーでした。

その頃、「自分が使っている木材はどこからやって来るのだろう?」という素朴な疑問を持っていた樋口さんはこのツアーに参加。そこで、山から伐採された木が木材となって自分たちの手に届くまでの長い道のりと、そこに関わっている人々のことを知ります。

そして、どんなに長い道のりであろうと、その流通過程を伝えることは木材を使用する人間に大きな安心感と愛着を与えることに気がついたそうです。

 

 

その後、ツアーから帰国した樋口さんは、すぐさま日本の木材流通について調べ、日本でも流通全体の見える化や木材の認証化が始まり始めたことを知ります。

「その時、日本もこういう時代になってきたんだ。自分もいつかは流通全体の見える化や、木材認証をやりたいと思った。それから10年くらい経って、一般的にもそれらが出来るような流れが出来てきた頃に(向井木材株式会社より)一緒にやらないかと言われたのが木材製造の道へ進んだきっかけ。」

木材はどこから来るのかという1つの疑問から始まった、木材製造への道。

ここから樋口さんの木材製造の日々が始まりますが、ここでまた1つ大きな出会いが起こります。

それは、「木材コーディネーター」という考えとの出会いでした。

 

自分の思いが具体的にまとめられていた
「木材コーディネーター」

 

「木材コーディネーター」とは、山からまちまでの流通全体を把握し、流通全体でのリスクと利益を分配することで、山側に再造林するための資金を還元する、そのために各流通段階に適切なアドバイスを行う人材のこと。

「北欧から帰った後、日本の山や木材流通について勉強していく中で、流通の各工程のつながりが途切れていること、それが原因の一つとなり、山へ還元される利益が圧縮され、林業経営が厳しくなっているという現実を知った。」

「では、自分はどうするべきか。そう考えていた時に『木材コーディネーター』という言葉に出会って、まさに自分の考えていることが具体的にまとめられていると思った。」

そこで木材コーディネーターに興味をもった樋口さんは、平成25年度木材コーディネーター養成基礎講座(現:木材コーディネート基礎講座)を受講、半年間の座学と実習を経て、講座を修了します。

 

 

実際に受講されてみての感想を訪ねてみると、

「受講して良かったのは、同じ志を持つ仲間が出来たこと。もちろん、知識や技術を得られたことも大きかったけど、やっぱり仲間が出来たことが一番。建築士や森林組合員など木材に関わる色々な立場の人が全国各地から1箇所に集まって、1つのことをそれぞれの立場で議論していくというのはとても新鮮だった。共通の志を持ちつつも、活動地域や立場が違うから、考え方や方法論が違う。彼らと議論を深めることで、自分自身の考えの幅も広げられたと思う。」

講座について、このように語ってくれた樋口さん。

そして、この講座の修了後、これまでに自身が業務を通して作り上げてきたネットワークと、講座で得た知識や技術を活かして、あるプロジェクトを立ち上げます。

それが「人と木をつなげるプロジェクト」と題された、お互いの顔が見える木材流通をデザインするプロジェクトです。

 

木のまわりにはきっと人が集まってくる

 

「人と木をつなげるプロジェクト」は愛知県豊田市で伐採された木を豊田市内でデザインから加工・生産・販売する『完結した流通』をデザインし、それをブランド化することで、豊田市内での資金循環や豊田市産木材のアピールの促進を図るプロジェクトです。

この「人と木をつなげるプロジェクト」には樋口さんを始め、一級建築士や木工作家、デザイナー、フォトグラファー、インテリアコーディネーターなど趣旨に賛同する多様なタレントを持ったメンバーが参加しています。

また、樋口さんがこれまでの仕事の中で関係を築いてきた市内の森林所有者や林業家、製材工場や材木店なども提携・協働という形でプロジェクトに関わっています。

 

 

このプロジェクトでは「豊田市の森を知る」「豊田市の木と親しむ」「流通をデザインする」という3つのテーマのもと、それぞれのテーマに沿った色々なプログラムが提供されています。

 

テーマ①「豊田市の森を知る」

 

 

豊田市の人々が、地域の資源である森を知るきっかけにしてもらえたらという思いのもと、業として木材に関わりを持つ地元の林業家や木材事業者はもちろん、普段木材との接点のない一般市民も参加して楽しめるような講演会やトークイベントを開催しています。

 

テーマ②「豊田市の木と親しむ」

 

 

このテーマでは、とにかく木に触れる楽しみを知ってもらおうという趣旨のもと、お箸づくりのワークショップや南米の打楽器であるカホンづくりなど、実際に豊田市産木材を使って、子どもから大人までが楽しめるプログラムが提供されています。

 

テーマ③「流通をデザインする」

 

 

このテーマのもとでは、豊田市産木材の流通を伐採から仕入れ・製材・加工・販売までを市内で完結するようデザインし、その一連の流れも見える仕組みづくりを行っています。

この一連の流通全体をブランド化し、そこから生まれた商品をアピールすることで豊田市の地域資源を広く消費者に伝えることを目的としています。

現在、これらのプログラムや取り組みを1つ1つ大切に行っている樋口さんたち。

 

最後に、このプロジェクトのやりがいと今後の目標を教えてもらいました。

「プログラムを通して、豊田市内外で豊田市産木材の魅力に気づいてもらい始めていることと、プロジェクトの趣旨に賛同してくれる仲間が増えていっていることが、今は何よりのやりがい。本当に『木を中心に人が集まってきている』ことを実感している。」

「このプロジェクトは初めてから1年が経ち、自分たちが思っていた以上に注目されているし賛同してくれる人も多い。これから将来的にどう発展させていくかは、地域の皆さんと一緒に考えて行きます。やっぱり地域の森林所有者や森林施業者が自分たちの山や仕事に誇りを持てるような、そんな活動にしていきたい。」

 

今回のインタビューで印象深かったのは、「参加者の人はもちろん、自分たちも楽しめるものじゃないとプロジェクトは続かない」という言葉。

インタビュー終了後も「今後も色々な職業の人と一緒にプロジェクトを盛り上げていきたい。例えば、あの人と一緒だったらあんなこと出来るし、あの人とだったらこんなことも出来るなぁ」と今後の展望を本当に楽しそうに語ってくれていました。

この4月から2年目がスタートする「人と木をつなげるプロジェクト」。

今後の発展も楽しみなプロジェクトです。

 


 

インタビュー・文 山内祥子(NPO法人サウンドウッズ)

写真提供       永田ゆか(人と木をつなげるプロジェクト)

桜木摩耶(NPO法人サウンドウッズ)